- [くらしのこと市2019 / ルポルタージュ」
- 2019.12.29 Sunday | くらことルポ | posted by くらしのこと市 |
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2013年から始まった『くらしのこと市』。
今年で7回目を向かえた。
http://kurakoto.jugem.jp/?eid=278
昨年から会場が静岡市の足久保から『ARTS&CRAFT静岡』(以下、A&C静岡)と同じ静岡縣護国神社に変更された。
昨年のくらしのこと市終了後の主宰名倉さんの日記にはこう書かれている。
「今回の開催に至っては、『違いを意識する』に留まったところだったと思う。要するに、次の開催にむけての『きっかけ』。そういうことだろう。」
これを踏まえて今年の開催では、うつわを体験する場を複数設けた。
そして、それはスタッフが介在せずに出展者同士のコラボ企画であったり、スタッフが一人で店に立つことであったり、もちろんこれまで通りスタッフによるカフェが開かれたり、盛りだくさんの内容である。
今回は、うつわの体験の場の企画を中心に出展作家さんやスタッフのインタビューをお届けします。
「うめぼしの松本農園」さんと「茶屋すずわ」さんのブースの間に、一枚板の長テーブルや茶箱を用いて客席が設けられた。
ここで開かれるのは、三浦侑子さんのワイングラスで松本農園さんのホット吟醸梅酒と完熟梅シロップのお湯割り、茶屋すずわさんの呈茶が提供される企画『梅とお茶とワイングラス』だ。
◯茶屋すずわ http://kurakoto.jugem.jp/?eid=271
◯うめぼしの松本農園 http://kurakoto.jugem.jp/?eid=272
茶屋すずわさんのお茶を淹れる様子を間近で見ていると、ふわっと良い香りが。
この香りの高さ…特別なお茶を淹れていることがわかる。
客席につくと、喧騒から少し離れてここだけ時の流れが一際ゆったりしていると感じる。
茶屋すずわさんのお茶が運ばれてくる。
ワイングラスに入った2種類のお茶の色の違いや飲み比べをしていると、松本農園さんのブースからやってきたお客さんの持つワイングラスに目が行く。
こっくりとした黄金色の梅酒。
こうして互いに楽しみつつ、次はあちらの店に行こうと思っている人もいるだろう。
私が『梅とお茶とワイングラス』の企画で気になっていたことは、主宰の名倉さんから企画を提案され、そのあとは出展者のみで進めていったこと。
大きな声では言えないが、こういうことを丸投げと言うのでは…と心配であった。
最初にお話を伺った松本農園さんのご夫婦はそれを否定しながらも、茶屋すずわさんと手探りで企画を進めていったと話す。
清さん「すずわさんのお店に1度お邪魔しました。そのときは、実態がわからないね、と話をして。それが11月の半ばですね。そのとき話したことは、ざっくりとした雰囲気、あと値段とか。」
昨年のくらしのこと市で、松本農園さんと茶屋すずわさんのブースが並ぶ間にベンチが置いてあったそう。
双方が持っていたストーブをベンチの脇に置いておいたらお客さんがそこで寛いでいた。
その様子が今回のブースづくりのヒントとなった。
裕美さん「すずわさんが設えてくださった空間のおかげでみなさんゆっくりされていきます。ガブッと飲むんじゃなくてみなさんゆっくり呑んでいらっしゃいました。それが、くらしのこと市ならでは。足久保でやっていたときと会場は変わっても雰囲気は似ている気がするんですよ。ゆったり感もあるし、お客さんと近いよね。A&C静岡の時はありがたいことにたくさんのお客様にきていただけるので話があんまり出来ないけど、くらしのこと市はお客さんと話す時間がたっぷりとれて嬉しい。」
清さん「屋外でグラス提供することは、けっこう悩みましたね。でも、雰囲気が全然違いますね。お茶もですけど、梅酒もなかなかワイングラスで飲むってことはないですよね。このグラス飲みやすい!見てくるってお客さんが言ってくれていたし。さすが三浦さん。」
ドリンクの提供は、三島市で開催される『Village』以来2年ぶりであった。
実は、今回の企画をきっかけに静岡市の露店営業許可を取得された。
清さん「Village以来でしたけど、楽しかったですね。朝の時間は忙しいんですけど、昼過ぎからは時間も出てくるのでこれからドリンクの提供が出来たらいいなと。珈琲を飲めないって方もいますしね。」
裕美さん「これまでも、現場で提供出来たらいいなと思ってはいたんですけど、一歩出なくて。なんか…梅干しのお粥とか、梅のドリンクとかできたらいいかなとは思っていたんですけど。でも、声を掛けてもらえたので後押ししてもらえて。今回みたいに提案、こんなんやってみたら?と言ってくれたら喜んでやりますよ。」
次にお話を伺ったのは「茶屋すずわ」さん。
あの香り高いお茶のお話を伺った。
“薫風”という名の、茶屋すずわさんが大切に仕上げたお茶だった。
「薫風の特徴は、雑味が一切なく、摘みたての茶葉の香り。頭に茶畑が浮かぶようなものをとイメージして、もともと天竜という産地のお茶の名人が品評会用に育てたものなんですね。人が大切に育てたものを預かって仕上げる。そうしたときに、できるだけ丁寧に、というところから機械を通さずに手仕上げにして。昔ながらの炭火を自分で起こして、和紙の上で乾燥や焙煎をしたお茶なので、愛着があるお茶ですね。もう一つ提供しているお茶の“月花蜜”は季節の料理を作る『夕顔』の藤間夕香さんと共につくったお茶です。こちらも自信がある、胸を張って出せるお茶です。」
茶屋すずわさんは、普段お酒を飲まれないので、これまでワイングラスを使う機会が無く、どう淹れたら一番きれいに美しく見せられるだろうと量や色の濃さを試行錯誤した。
今回の企画でお茶の楽しみ方の広がりを感じたそう。
「実際に出展前に三浦さんのワイングラスを使って淹れてみたんですけど、香りが愉しめる形状になっているのですごいいいなと思いましたね。お茶って湯飲みの上から見る機会が多いんですけど、それが横からでも色が愉しめる。光が入ってくるこういう場所でガラスのうつわ、というところで広がりがあってすごく良かったのかなと思います。」
企画を提案されることに対して、自身の活動の幅や技術の向上にも繋がると話す茶屋すずわさん。
過去にもA&C静岡からの企画の提案によって新たに一歩踏み出せたことがあるそう。
「今回のように企画をもらってやることで、課題もあればそれを乗り越えたときに自信も出てくるし、また新しく違うことを出来るということがありがたくて。そこから自分たちのお店でも呈茶をしてみたり、ワークショップを開いたりときっかけになりました。コラボに関しては、信頼関係がないと難しいかなとは思っていて、松本さんとは前回のA&C静岡でいつか一緒にやりたいねっていう話をしていて、その後松本さんが当店に来てくれてじっくり話ができたことがよかったです。名倉さんは、僕らの小さな声を拾ってくれてやりたいなということの背中を押してくれる人で。寄り添ってくれる人ですね。」
松本農園さんと茶屋すずわさんの向かい側のブースに、ワイングラスを制作した「三浦侑子」さんが出展されていた。
今回の企画を目の前で見ていての感想を伺った。
「最初はすごく緊張していたんですけど、目の前で使われるので。すごく幸せな気持ちに。素敵な雰囲気でお客さんがゆったりしてもらえたんで。すごく幸せな、あったかい気持ちになりました。お客さんがゆったりされているのがいいなって。あそこだけのんびりしていますね。」
今回提供したワイングラスの中には新作があり、あっという間に完売してしまったそう。
これまでのワイングラスに比べるとカジュアルに使える印象の新作はどのような経緯で作られたのだろうか。
「今年の夏くらいに、ビールとか、アイスコーヒーとか飲めるようなサイズのグラス無いですか?ってお客さんに言われたのがきっかけで作り始めて、やっと形になったかなって。もちろん洋食器に入るんですけど、どちからというと、今回の企画って和じゃないですか。だから、合うかなー?大丈夫かしら?って心配していたんですけど、お二方ともすごくよかったです。作り手にとっては、普段自分では使うけど他人が使うのは見れないじゃないですか。それがすごい新鮮だったし、嬉しかったし、どんどん使ってくださいという感じです。」
これまで、くらしのこと市のカフェで作家さんのうつわで提供することはあっても、その様子を作家さんの目に触れることはなかったかもしれない。
出展中はなかなか難しいことではある。
しかし、今回のように企画が点在されていることで目に触れる機会が増えればと思う。
自分で作ったその先を見られる喜びを多くの出展者の方に感じて欲しいと、三浦さんの笑顔から改めて感じた。
『燗酒やくらこと』に立つのは、スタッフの橋本さん。
この企画のきっかけは、うつわを体験する場を増やすために企画を考えていたとき、名倉さんから声をかけられたのだそう。
燗酒やくらことは、島田市にある大村屋酒造場さんのお酒1種類を常温と熱燗で飲み比べをする。
酒器は出展作家さんのもので筒状のものや平たいものなど様々な形状があり、橋本さんから形状によるそれぞれの楽しみ方の話がある。
温度の変化で味や香りがこれほどまでに印象が変わるものなのかと、日本酒初心者の私は感激した。もっと日本酒を飲んでみたいと思った。
小屋の中には女将の橋本さんをぐるりと囲むカウンターが出来ており、私が参加したときは7名の満席であった。
橋本さんのお酒や作家さんのうつわの話、お酒を注ぐ手つき、他人を緊張させないおおらかさ、それでいながらきちんと距離感を保ち相手と接する姿はまさに暖簾も守る女将さんであった。
大村屋さんとは、以前にA&C静岡の『酒器と日本酒』の企画をきっかけに酒蔵でお手伝いをさせてもらったことがあると橋本さんは話す。
今回も燗酒やくらことをやるにあたりどのようにお酒の説明をすればいいかアドバイスをもらったそう。
「今回、大村屋さんにはこの企画の前に、遊びに来ませんか?って言ってもらって。2、3年前の蔵の状態とあんまり変わりは無いんだけど、中を案内してもらってお酒を作っている蔵人さんと会って。そうするとまた気持ちが上がるよね。それは、作家さんもそうで。好きな作家さんとかさ、お酒が合うだろうなって思って声かけた作家さんばかりだから。この人のうつわだったらきれいかなって。他の人とのバランスも見て面白い人が集まったら良いなって。」
開催前のインタビューの事前質問で「くらしのこと市を前にしてどんな感情を持っていますか?」の質問に「ただ今は一言、不安…。心細いというか。だって、私ひとりですよ?」と返答がきた。
そう、未だかつてスタッフが一人で立ってお客さん相手に企画をしたことがなかった。
スタッフの大半が普段はふつうの会社員である。
かつてスタッフをしていた私は自分だったら考えられないと、会の最中に尊敬の眼差しで橋本さんを見ていた。
「次にスタッフが一人で企画をやるならば、とことんこだわれとアドバイスしたい。みんな、この小屋の雰囲気をみて、すごーいって言ってくれるけど、こうしたいと思ってこうしたから、私は。」
“とことん”とは、立ち飲みと作業スペースを自分で計算するのはもちろん、雨天時にお客さんが濡れないように席を工夫し、作家さんを選出し、暖簾を手縫いして、小屋の中も自分でディスプレイした。自分で始めて、自分で完結させるのだ。
また、機会があればやりたいですか?
「私がやるならきっとお酒がらみになると思うから、日本酒をやるんだったらまた違う飲み比べをしてみたいなって。酒蔵さんを複数にするのか…。何回も同じことしてもつまらないし、来てくれる人は半分くらいがリピーターさん。くらしのことカフェにも行っていたり、A&C静岡も来ている人だったから、そういう人たちにも新しい発見というか、ああ、なるほどって言うものがあるといいし、初めて来た人も面白いな」思ってもらえたら。またやりたいね。」
また、女将が暖簾をあげる日が来ることを期待している。
今回の『くらしのことカフェ』のメニューは“白いスープ”。
はじめは、ポタージュやクリームシチューのようなものかな?と想像していたが、出てきたのは、透き通ったスープに白い野菜を中心に具材がゴロゴロ入っているもの。
鶏ガラ、昆布と乾燥椎茸の旨味のスープは、しみじみと美味しい。
野菜がくったりせずシャキシャキとした歯ごたえが面白く、満足感のある一皿であった。
数ある作家さんのうつわの中から私に運ばれてきたのは、児玉修治さんのフォルムが美しい白いスープボウルだった。
どなたのどんなうつわが運ばれてくるのか?カフェの楽しみのひとつだが、今回は出展作家さんが提供したパン皿を選ぶことが出来たのは面白い試みであった。
私はフレル 山田哲也さんの木製の四角いパン皿を選んだ。
今回のカフェのリーダーの山梨さんからお話を伺った。
くらしのこと市の第1回目からカフェ企画を担当している。
今回は、仕入れ農家さんに出向き、自ら収穫を行うなどこれまで以上に工程を大事にしてきたという印象が見受けられる。
けれど、メニュー開発ではこれまでとは違う出来事があったそう。
「リーダー的に上手くやれていなくて。シミュレーションのときにスープを作ったのだけど、今回はこれでいきます!っていうものがスタッフに出せなかった。何回かの試作段階でこれでいいかなって思ってしまって、そこから踏み込んでなかった。それを自分で気づいた。そこに気がついて、それで名倉さんにもう一度やらせてほしいって言いました。」
7年目となる開催ともなれば、慣れは出てくるだろう。
けれど、今回のように自分自身に問いかけてやり直すことを選択できるのは、原点を忘れてはいないから。
「第1回目のカフェのテーマは、“ご飯”で飯碗を紹介して手に取りやすいところから始めて。日常を少し豊かにする、というくらしのこと市のコンセプトは今も崩れていないです。」
カフェのメニューは、うつわを手にとったお客さんが家に帰っても再現出来るものにしている。そして、作品との出会いからメニューが決定することも度々あるようだ。
「今回のスープは、スタッフと作家さんのスープ皿を見て、これはときめきだね!って。だから作家さんの作品を見て回っているときにまたインスピレーションが生まれるかもしれないし。このうつわ使ってみたい!っていうところから始まる。」
くらしのことカフェでホールを3年担当してきた松村さんは、山梨さんのことをこう話す。
「今回の白いスープを提供するにあたり、山梨さんがカフェスタッフに、このスープはみんなで作っているんだよって言ってくれるから、私はやれるところをがんばろうと思える。」
くらしのことカフェの始まりは、将来カフェを開きたいという思いのあるスタッフから企画されたもの。
最初はお手伝いの感覚で参加していた松村さんも、今は自分事としてカフェを楽しんでいると言う。
「このカフェで作家さんのうつわを体験してもらう場で、私たちは私たちの思いがある。その両方があったらより良い場所だなって。」
そんな思いで開かれているくらしのことカフェには、絶えずお客さんが足を運んでいた。
スタッフ、作家さん、お客さん、全ての人に良い巡りが生まれる場所だった。
『大きな器とカレー』の企画に参加されているのはSPICE6さんと無農薬玄米カレー コブカフェさん。
今回は、コブカフェさんのカレーを頂いた。
白い小屋の中で開かれた会の参加者は10名ほど。
コブカフェさんのカレーは“ワールドワイドなカレー”というテーマ。
チキンとエビとキーマの三種類のルウが愉しめる贅沢な一皿。
8寸〜10寸ほどのサイズの出展作家さんのうつわで提供された。
ここまで大きなうつわを自宅で使うことはなかなか無く、大きさに圧倒された。
三種類のルウをどれが好き?と話しながら食べるのも楽しい。
私は辛いのが苦手なのでエビのマイルドさがとても好きだ。
そのあとに頂いたチャイはこれまでの人生で一番美味しかったと言っても過言では無いものだった。
さすが、スパイスを知り尽くしているプロだと脱帽。
コブカフェさんは、自宅で料理を友人たちに振る舞っていたことをきっかけに実店舗の飲食店の経営をはじめ、現在キッチンカーで全国のイベントに出展されている。今回の企画についてお話を伺った。
「名倉さんから話がきて、正直大変だなって(笑)10人以上を同時にサーブするのは、次やるならかなり改善策をいれないと…。お客さんの期待よりもプラスでいきたいなと。うち、カレーも1000円くらいするし、今回の大皿も2400円で、ハードル高いと思うんですけど、それを越えていって、その値段でも全然アリだったな、お得だったなって思ってもらえるようなものを出していきたいなと。」
今回は6名の作家さんのうつわで提供をされた。
コブカフェさんにとって、様々な形や大きさが異なるうつわに盛り付けて提供される企画をどう感じたのだろうか。
「いろいろな形ではありますけど、基本的に大きいうつわはうちとしてはありがたくて。昔の欧風カレーは深いうつわを使うんですけど、最近のスパイスカレーは広くて浅いのが主流ですね。盛ったときに見た目が華やかになるし。今回も盛り付けていて楽しかったです。僕、青が好きなんですけど今回のうつわでは恩田陽子さんの青いうつわが好きですね。今回、カレーの企画の出展者さんじゃない方だと、大隅新さんのうつわもやってみたら楽しいんじゃないかなと。」
この日ももう1台のキッチンカーが他のイベントに出展していたり、日替わりカフェでカレーの提供をされたり、スパイスの販売を始めるなど様々なことに挑戦されている。
今回の企画については「このあと大反省会ですけど…」と話されていたが、今回の挑戦から、また何か新たなコブカフェさんが見られるような予感がして楽しみだ。
洋服を制作している「NEW WAY,NEW LIFE」さんのブースがA&C静岡と雰囲気が異なっていた。
ブースの中央にほとんど洋服がなく、ぐるりとブースを囲うように吊されていた。
いつも洋服を広げられるくらい大きなテーブルを用意されているが、今回は一人用の小さなテーブルが置いてあり、その上には照明が吊されている。
思わず、「部屋のようですね」と声を掛けた。
「今年はブースの作りを部屋っぽさで考えていて。昨年も照明とか大きなテーブルを持ってきていて、もうちょっと開放的な感じでした。昨年は、隣のブースがアクセサリー作家さんだったので繋がり持たせるようにブース作りにしていましたね。」
今回は昨年とは打って変わって閉じた空間を作るイメージを強くしたそう。
確かに、ブースを囲う洋服が壁のようになっているように感じる。
そして、作品数を少なくしてゆったりとした部屋の空間を生み出している。
冒頭でも書いたように、A&C静岡とくらしのこと市は昨年から会場が同じとなり、うつわの体験の場を増やすなど、よりわかりやすい差別化を図っている。
そういった中で、NEW WAY,NEW LIFEさんのように出展者側もくらしのこと市ならではのブース作りを考案している方がおられるのはとても嬉しいことだ。
陶のうつわを作る「児玉修治」さんにもブース作りについて話を伺った。
児玉さんのブースには定番のうつわが並ぶなか、一際目を引く存在感の大きな土鍋や白くて厳かな雰囲気のあるお重が。冬のたのしみを提案されているのが伝わってくる。
「くらしのこと市は、冬の12月なので、季節を意識したラインアップにしていますね。A&C静岡のときも季節感っていうのは意識しているんですけど、冬ならではの土鍋。ディスプレイもお正月のお重や、テーブルコーディネートじゃないけど、使われる感じを意識したディスプレイをと心がけています。ただ並べるだけではなく、お皿の横にカップを置いて、組み合わせて使えるような提案をさせて頂いていますね。」
そして、児玉さんからは、うつわのコーディネートについての面白い企画提案があった。
「いろんな作家さんが出ているじゃないですか。うつわのコーディネートみたいなのをプロと言わないまでも、スタイリング出来る人の企画小屋みたいなのがあったら面白いのかなって。作家さんによって得意分野ってあると思うんです。それぞれの作品を組み合わせたひとつのディナーテーブルみたいな。もしくは、朝・昼・晩のコーディネートを見せるとか。“くらしのこと市的”になると思いませんか。」
この提案を頂いて、私の中にむくむくと想像が膨らみました。
確かに、作家さんの作品たちを使った企画はあるけれど、一同に見渡せる機会はなかなか無いな…と。
朝・昼・晩のコーディネート、和食か洋食かにしても全く異なるものが見られそう!
主宰の名倉さんにお話を伺った。
まずは、くらしのこと市の全体的な感想を。
「2日間通して今回は、実際の作品の体験の場が増えたことにより常に動いている感じが会場内にあるから、それは当然狙い通りであるから。良いことだよね。お客さんがより参加して、一緒に作っている感じが出るからそれは言葉としてはダサいけど、体験型のクラフトフェア、という風に言ってもいいんだろうなって改めて思ったかな。」
『梅とお茶とワイングラス』の企画について。
松本農園さんと茶屋すずわさんは、A&C静岡やくらしのこと市、三島市のVillageにも参加されており、長年の信頼があっての企画の提案だった。
「松本農園さんと茶屋すずわさんには当然、信頼があるからこそ新しい魅力を発信したいと思ったし、お題を提案して、任せることが大事だと思った。ふた組がただワイングラスを使って提供しただけじゃなくて、ちゃんと提供の仕方や、場の設えも考えていたから、三浦さんは幸せって言葉で感じたんだろうね。」
出展作家さんにインタビューをした際にA&C静岡とくらしのこと市の差別化について伺ってきた。会場が同じで、開催日も近いイベントにどう差別化を図るか?多くの方が、主催側からわかりやすくテーマや企画の提案を求めていた。
「普段のA&C静岡とくらしのこと市の全体を通しての差別化ってなかなか伝わりづらい。なので、出展している人に提案してから、その人たちに回答を求めるというか。そうやって、普段と異なる場を増やしてゆくことで結果、差別化になる。それは今後のヒントになると思いました。特に、うつわじゃないジャンルの人に対して尚更、そういったケアというか提案が必要だと感じました。」
『燗酒やくらこと』のように今後スタッフが一人で企画をすることについて伺った。
「今回やってみて、今後くらしのこと市で作家さんの作品を用いて場を作るのであれば、一人でやる企画がいくつかあってもいいのかな。スタッフひとりひとりの場があってそれが連なっている、長屋とか。そのほうが扱える作品の種類も増えるし、スタッフ内の風通しが良いと思ったかな。」
まだ、2日目の開催中ではあったが、次回のくらしのこと市について考えていることを伺った。
冬を楽しむような企画、まさに今回の『燗酒やくらこと』のような企画が次回も期待されそうだ。
「12月にやっている以上、当然意識していることだけど、冬、寒い、というデメリットを裏返すような案。冬を利用する、寒いことを楽しむ。そこの意識っていうのは深めたいし広げてもいいかなって思うよね。全体の共通意識としてそこを浸透させてゆくことで、冬や寒いというキーワードが強みになるもと思うから。寒さから回答を得るということ。」
以上で、くらしのこと市のインタビューを終わります。
昨年からA&C静岡とくらしのこと市の会場が同じとなったことで、差別化を図かるためにうつわの体験の場が複数点在しました。
企画に携わったスタッフや出展者の方々には多くの苦労や試行錯誤があり、それにより、うつわを使うことを楽しむ景色が会場のあちこちで見られたのだと思います。
私個人的な見解ですが、名倉さんが主宰する静岡県内で開催しているイベントの中で、くらしのこと市はA&C静岡と比較され、変化を期待されていたイベントだったと感じます。
1日の開催から2日開催となったとき、そして護国神社へ会場が変わったとき、近しい人からどう変化するのかと聞かれることが度々ありました。
その疑問は、作家さんのほうがより強く思うことでしょう。
今回、ルポルタージュではうつわの体験の場の企画のインタビューを中心にお届けしました。
今年のくらしのこと市の景色をA&C静岡を知っている作家さんにお届けできたら、より嬉しく思います。
くらしのこと市
ルポルタージュ
米澤あす香(Re:common word)
https://www.instagram.com/asuka.yone/
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公式ウェブサイト http://www.kurakoto.com/
インスタグラム instagram.com/kurashinokotoichi/
お問い合わせは下記メールアドレスまでご連絡下さい。
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- 第2回くらしのこと市ルポ:後編
- 2013.12.28 Saturday | くらことルポ | posted by くらしのこと市 |
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【前編】に引き続き後編をお届け致します。ご覧下さい。
…
次にお話しを伺ったのは女性のお客さん2人だ。
カフェで食事をなさったのですね?「土鍋ごはんと七つのおかず」の感想を頂けますか?
「美味しかった。机についた人、全員の器も、ひとつひとつ違っているのが良かった」
「器ひとつで、ご飯が美味しく感じられるのだなということを改めて実感しました」
ありがとうございました。
僕もくらことのシミュレーションで、カフェスタッフの二人、川手さん・山梨さんがつくった「土鍋ごはんと七つのおかず」を頂きました。七つのおかずは、メインが春巻き。プルーンとカマンベールとくるみにささみを挟んだもの、トマトの中に干し梅入れたもの、キュウリに味噌マヨネーズ添えたもの、ローゼルの甘酢漬け、梅干し、大根ゆず味噌乗せです。
美味しかった、というのが素直な感想。
七つのおかずの彩も良く、まず、眼で楽しめるのが良かった。そして、それら平皿に並べられた七つのおかずに、順番に箸を渡すのが単純に楽しかった。眼で見て美味しくて、箸を運ぶ楽しみもあって、さらに味もいい。土鍋で炊いたご飯にそれらおかずを合わせると、またその旨味も増したように思った。満足です。ごちそうさまでした。
次にお話しを伺ったのは、器の作家さん、山崎裕子さんだ。
「どこかに行って美しい物を観る。ではなく、自分の生活に美しい物が入るということの方が、効果があるというか、ダイレクトに楽しい。自分の生活の中で楽しめるものを目指して器づくりをはじめたので、くらことのコンセプトには共感しています」
生活の基本ですものね。
「お茶を飲むときにきれいだなってホッとするというか、どこか余所じゃなくて、自分のところで美しなと感じられるものが大切」
その考えは昔からですか?くらことのコンセプトにすごく近いですが?
「前からですね。でもこういうイベントに人が集まるってことは、同じように考えている人も増えたっていうことですよね?自分と同じように感じている人がたくさんいると思うと嬉しい」
基盤である生活に、彩を与える物を大切にする山崎さん。生活が生きることの中心であることを考えさせられる対話でした。
…
14時になった。カフェスペースの隣のスペースにて、スタッフの米澤さんが司会を務める、「くらしのトークショー」が始まった。話し手は、早川靖さん(陶磁)、フジナミチハル(フード・Chipakoya)、名倉くんの三人だ。
前回のトークショーとの大きな違いに、パネルディスカッションがあった。ステージの四人がそれぞれ自前で平日の朝ごはんと休日の朝ごはんを撮影し、それをパネルで見せ合いながら言葉を交わすというものだ。こうして、作家さんやスタッフの日常そのものが切り取られ、作家さんなら作品のことやつくることを聞いたあとでそれが提示されたのには、興味をそそられた。
約40分弱のトークショーだったが、あっという間に終わったように思えた。
そして今回、「誰もいない会社で一人リハーサルをしている」と、言っていたスタッフの米澤さんの司会振りが良かった。アドリブは大の苦手と自称する彼女が、懸命に、話し手の会話を深めようと、かなりつっこみを入れていたのが印象的だった。早川さん、フジナミさんの真っ直ぐな人柄もよく引き出されていたように思う。
…
次にお話しを伺ったのは、前回のトークショーに話し手として参加して頂いた、紙モノ作家のmuniさんだ。muniさんは今回、ひとりの使い手としてこの会場に足を運んでくださったという。
「トークショーの感想。つくり手の普段の生活が垣間見れるのが、良いところですよね。つくり手の方が、どんな生活をしているか、気になりますし。そこがトークショーのいいところじゃないですかね。パネル見せながらも、言葉だけでなく、眼に訴えるものも用意していて。新しい形が見れて僕は良かったと思っています」
お客さん目線でのくらことの感想を。
「晴れたというのが一番大きい。この景観と作家さんの作品が溶け込んでいるのがいいですね。あと土鍋でご飯を炊くこと。今便利な世の中になって、ジャーでタイマーセットしてご飯を炊くのは当たり前になっていて。こういう自然の中でアナログ的なところを提供出来るのもいいと思うし。ホント、人間の生活の原点を、スタッフさん、方向性を考えてるなぁーと思います。だから、第三回目がとても楽しみですよね」
要望があれば?
「去年は各ブースに、物づくりに対する気持ちが書かれた紙が貼ってあった。それが今回もあっても良かったのにな、とは思いましたね。使い手とつくり手の間に作品があるのだけど、それを通して会話が出来る仕組みがあればな、と思いました。作家さんからの一方通行にならずに絡める何かがあれば、くらしのことについて考えるきっかけになるのかなと思いました」
…
次にお話しを伺ったのは、トークショーで司会を務めた米澤さんだ。
「やり切りました。でもお客さんが身内だけだったので。次はあるのかな?今回教室が出来なかったから。それやらないで、トークショーという感じなんで、次は教室に力を入れたいと思いました」
スタッフとしてくらことに関わっての感想を。
「作家さんと密になる。前夜祭もあったし、トークショーのイベントもあったし。その上で作家さんとの一体感について考えました。作家さんと一体感があるってこんなに楽しいのかって思った。その分責任がある。だから宣伝にも力を入れました」
くらことにお客さんとして回ってみて、すごく作家さんが積極的だなと思ったのですが。
「スタッフとのやり取りから、くらことの趣旨を作家さんが汲み取って、そうしてくれているのなら嬉しいです。もちろん、それ以前にいつも積極的な姿勢でお客さんと話されてる作家さんもいると思うのですけど」
反省点は?
「3時でこのお客さんの入りはダメでしょう。少ない。朝はたくさんいたんですけどね。ARTS&CRAFT静岡の場合、3時以降の吸引力となるのが「まちきれない! おやつセット」なんですけど。くらことの場合もそういったものを考えないと」
この後、米澤さんと前回のARTS&CRAFT静岡ルポ・前編の話しなった。彼女はいう。
「橋本さんの言葉に、スタッフはまとめ役と、聞き役、自己主張役がいて、これからはもっとまとめ役が育っていかなければならない、とあったんです。で、私は自己主張役なんですけど、自己主張役になれたのも実は最近なんです。それまでは、周りの空気を気にして意見を言えなかった。それが最近、ようやく言えるようになったので。橋本さん、名倉さんには、「もう少し待ってください」という内容のメールを出しました」
この「もう少し待ってください」は「私は変わりますから」と同意だ。
…
次にお話しを伺ったのは、一回目に出展して頂いているフードの作家さん「ユーカリカシテン」さんだ。
お客さんとしてこのイベントを観ての感想は?
「カフェで食事をしている時に、一人一人の器が違うことに気付いて、あ、こんな使い方も出来るんだという風に気付いたんです。そこで自分の生活にリンクした。器を見てても、家でどうやって使おうかと悩む時もあるので、そういう時に実際使っているのを見れると様子がわかるというか」
料理の味はどうでしたか?
「全体的に美味しかったですけど、ご飯と合わせたいおかずなのかな? と思う物もあった。プルーンなんですけど、これはおかずというよりおつまみかなって。私のイメージではお米が主役だと思っていたので。美味しかったんですけど、私のご飯のイメージに合わないものもあったかなって」
家で土鍋で炊いてみようと思いますか?
「うちは鍋で炊いているので。今度、土鍋でもと思いました」
要望があれば。
「カフェがスムーズでなかった。前回もなんですけど、ご飯が一時間待ちとかで、何も食べれなかったお客さんがいたっていうのも、何人かから聞いてますので。でもまだ一回目だからかなぁ〜って、思ってたんですけど。慣れないところで慣れないことをやっているから。人数が足りないのかもしれないですけど、全然改善出来て、全然良くなると思います。せっかくの色んな想いや志がもっと活かされると思います」
…
次にお話しを伺ったのは木藝舎の八木さんだ。
「お疲れ様でした」
あと30分くらいで終わりですね? ではくらことの感想を。
「はい。僕は朝、駐車場にいたのですけど、車がいっぱいで。人の出もあるけど、作家さんのチョイスも素晴らしくて」
八木さんから観たスタッフの印象を。
「名倉さんがまとめてるっていうのもあるんでしょうけど、みなさん人柄が良くて。そこに混ざって楽しませて貰ってます(笑)」
前夜祭も色々とやって頂いて。ありがとうございました。
「僕も楽しかったです」
前夜祭には、前夜祭でしか話し合えないだろうってことも作家さん同士あって。
「そうやって、作家さんが刺激し合って、ヒントを与えあえればいですね。でもホント、完成度の高い作家さんたちなので、来る人も「違う」っていう風には言ってますよね」
八木さん自身、くらことに影響を受けてくらしが変わった側面はありますか?
「あります。包丁を持って料理をちょっとはじめています。それまでに料理はやったことないのですけど。季節の物をお皿の上に乗せる、みたいな。まだはじめたばかりなので、この時期のこの料理にはこの器がいいって、もうちょっと見極めてからね、一点ずつ買っていきたいなって思ってます。生活が変わりましたよ」
嬉しい台詞ですね、ありがとうございます。では最後に要望があれば。
「年に一度、続けて頂きたいな。というのが一番の要望です」
ありがとうございました。
八木さんの料理の話しは、すごくシンプルな変化例だと思った。そして、料理のことを語る八木さんもすごく嬉しそうに語ってくれていたのが印象的だった。
…
次にお話しを伺ったのは、「みらいのあなたへ@くらしのこと市」でカメラマンをやって頂いた「OHNO CAMERA WORKS」の大野さんだ。
「今日もたくさん撮らせて頂きまして、10組くらい。開始が12時からなので、充分、僕も楽しく時間を過ごしました」
今回は背景が木藝舎さんがつくってる古材のパーテーションですよね?
「木藝舎さんでやったといういい思い出になるのでと思います」
今回のくらことから、ご自分にフィードバックされた部分があれば?
「生活が豊かになるものがたくさんあるので、仕事をさせて頂いているんですけど、心が豊かになるというか。見ているだけでも刺激にもなるし、そういう意味ですごく良い場所だなという風に思います」
最後の要望があれば?
「食事が食べれなかったというお客さんの声を聞いたので、もう少し何かあればなと」
ありがとうございました。
次にお話しを伺ったのは、カフェスタッフのお二人、スタッフの川手さん・山梨さんだ。
今回、どんな風にメニューが決まっていったのですか?
「二人で七種のおかずに試作を決めたのだけど、見た目とかを考えた時に違うんじゃないかと。シミュレーションの二、三日前に、ガラッとラインナップを変えました。最初、コンセプトを秋の山の色のイメージと考えていたのだけど、実際にお皿に盛った時に、料理を出された時の驚きとか、面白さがないなと思って」
カフェで気を使った点は?
「今回、土鍋ご飯がメインだから、炊き方に失敗は出来ない。そこに気を使いましたね」
周りからの反響は?
「器の作家の前田さんが言っていたんですけど、カフェでご飯を食べている時に、前田さんのお皿に盛り付けられた料理を「素敵」って言っているお客さんがいて、その後、前田さんのブースに来て、器を買ってくれた、と聞きました。それが聞いていて嬉しかった」
「返って来るお皿が、食べ残しがなくて嬉しかった」
「作家さんたちのおにぎりだったけど、みんな美味しかったと言ってくれて嬉しかった」
反省点は?
「揚げ物が難しい。春巻きを三角にしたのはいいんですけど、それが揚げ辛くて苦戦しました。最後の方に美しく揚げることが出来るようになったけど、最初の方はいびつで……」
素材はどこから仕入れましたか?
「食材は、川手家のお野菜だったり、山梨家の梅干しだったり、静岡県産のものだったり」
身近にあるものですね。では、最後に、今回のくらことを通じて変われた部分を。まず、川手さん。
「楽しかった。去年はやらなきゃやらなきゃで、終わって楽しかったかと言われればどうだっただろうというのがあったけれど。今回も疲れたけど、今すぐにでも眠りたいけど、楽しかった」
次に、山梨さん。
「同じです。去年は名倉さんに怒られる夢を見て、当日を迎え、アワアワ言いながら終わったけど、今回はおにぎりのワークショップとかもあって、みんなで一緒につくってる感じがして楽しかったです」
美味しいご飯をありがとうございました。
今回、二人はものすごく、くらことに労力を注いているのだろうと、はたで見て伝わって来た。前回のカレーに僕は批判的なことを言ったけれど、それに対して二人は、「尚更闘志に火が点いた」と言ってもくれた。
そんな二人がつくった今回の「土鍋ごはんと七つのおかず」は本当に美味しい物だった。そこに辿り着くまでの試行錯誤や、様々な行程。それを経た上でのこの結果。それが何より、二人の変化の証なのかもしれないと僕は思った。
…
そして、最後のお話しを伺ったのは、名倉くんだ。
くらしのこと市、お疲れ様でした。では、今回の感想を。
「くらことはまだ二回目だし、成功どうのこうのと話しをしても仕方ないけど、スタッフとの取り組みに関しては、過程から着地点まで概ねやれることをやれたように思います」
各企画について何かあれば?
「カフェはひとつの企画として、単にくらことカフェのメニューをつくっておしまいではない、お皿の上にあるものをイメージすることが出来ていたように思います。それは去年の反省から来ているかなと。」
「飯碗展は形にはなっていたけど、販売につながらなかったということは、自分たちがそこまで手がまわらなかったということだよね。それは真摯に受け止めたい。飯椀展は一生くんがレイアウトをやってくれて、飯碗を並べている過程でテンションがのってきて、植物をレイアウトに入れたりしだした。それがいいなと思ったよ。彼は普段見ている様々なものを、自分の解釈で実際に形にするべきだと思ってます。そうじゃないと彼の見ている景色が人には伝わらないから。」
「トークショーは米澤さんが頑張ってくれた。役者兼舞台監督みたいに。声のトーンだったり、色々なことを考えた上で、自分を形にしているなと。今後はトークショーで伝えたかったことをトークショーとは違う形で伝える。そういうことを米澤さんをはじめとするみんなで考えていきたいかな。」
今回の反省点は?
「まず、くらことやってみて良かったと思うよ。そこに参加する全員が、川手さん、山梨さん、米澤さんのように各自ひとつの企画を持っていたかと言えばそうではないけれど、くらことのスタッフとしては目指すべき方向がより鮮明になったから。工作の「つくる」ではなく、創造の「つくる」をくらことの中でやっていこうと改めて思った。反省ではなく、これからの目標だよね。スタッフにも、まず身内をあっと言わせるようなアイデアを出して欲しい。完成度ではなく、エネルギーの感じるものを、好きが伝わるものを。まずスタッフ内で響かないと、作家さんたちにも響いていかないからさ。」
「静岡スタッフはやるべきことをきちっとやれる反面、決まりのないものをやる時、いわゆる表現によったものをつくろうとすると、固くなっちゃう。そうじゃなくて、軽さのある部分、抜くところがないと、良い物はつくれないと思うんだよね。考え込むことで固くなったものを、飛躍させるもの、抜きどころだよね? それを伝えたかったのが枯葉のワークショップ。あらかじめルールがある訳ではなく、考えつつ、飛躍しつつ、抜きどころを見付けていく。その連続だと思う。そこでみんなが気持ちいいと思える景色が生まれて、面白いな、綺麗だな、って感覚が自然とルールになっていく。それを、ワークショップという体験で伝えたかったし、それが僕の役目かなって思っていた。でも、勉強になったよ。皆のお陰で。」
最後に、次回のくらことに向けて。
「木藝舎さんで二回目。八木さんには今回も、僕らのしつこい準備に協力してもらって、わがまま放題でやらせて貰ったっていうのは間違いないから、あの場で自分たちが何が出来るのかを考えたいし、本当に自分たちが何をしていきたいか?それぞれが考えながら、皆と話し合っていきたい。木藝舎さんにも何かしてもらいたいよね、思いつきですが。」
「くらことは、自分たちがつくるイベントであるんだけど、参加する作家さんにもっと協力して貰いたい。くらこと故に見せることの出来るものとか、そういったことを一緒に考えてくれる作家さんに出て貰いたいです」
お疲れ様でした。
ありがとうございました。
これは冒頭でも触れたことだが、くらことは「つくること」で「変わり」、「変わる」ことで「生まれた」イベントだと思う。それを今回、間近で見ることが出来、大変、貴重な体験をさせて貰ったと僕自身思っている。
僕自身が考える、今後のくらことは、教室のようなものがやはり欲しいということ。それは、名倉くんの台詞にもあった、「トークショーで伝えたかったことをトークショーとは違う形で伝えていく」という結果の上にある教室かもしれないし、また違うものかもしれないけれど。
スタッフを見ていて感じたことは、変化と不安は対にあるものだとも思う反面、変化を怖れない心には、対に勇気が宿っているとも思えた。そんなみんなには、今回、色々と気付きを与えられたし、シンプルにそんなみんなを良いと思えた。
今後、企画を実現していくという面で、いいものをつくり上げていきながらそれが形になっていったら、どんどんみんなも変わっていけるし、そこには期待している。変化と実現はイコールなのかなと思う。そんな今後のくらことを僕は楽しみにしています。
毎回の長文、読んで頂きありがとうございました。
これにて「第二回くらしのこと市ルポ」を終わります。
うえおかゆうじ
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くらしのこと市
- 第二回くらしのこと市ルポ:前編
- 2013.12.27 Friday | くらことルポ | posted by くらしのこと市 |
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「第二回くらしのこと市ルポ:前編」
このルポは、以前、前・後編に分けて掲載された「くらしのこと市(以下→くらこと)ドキュメント」の流れを汲むものだ。
僕はその中で、くらことに関わるスタッフが、前向きに変化しようといるその様を追い、その姿を通じて「変わることによって新しい未来に入ることが出来る」といったような考えに至った。
さて、僕は何が変わったのだろう?
まず、大きかったのは、その記事を通じて、自分の考えを遠慮なくスタッフに伝えたことだ。
例えば僕は、前回のくらことを通じて、自分の生活が変わったかといったら「それはない」と書いた。
そういったことを率直に書くのは、僕の最も苦手とするところだった。
他人に遠慮をし、物事を薄くまとめてしまう。そういう側面があった。
その枠を超えることが出来たのが、「くらことドキュメント・前編」だった。
枠を超えることが出来たきっかけは、スタッフにあった。
スタッフが取材を通じて、率直に、自分の内面まで語ってくれたこと。その信頼が嬉しかった。だから僕も枠を外せたのだと、今に思う。
前編を読んで、あるスタッフが僕個人宛てにメールをくれた。
「うえおかさんの考えを直接聞くのでなく、後になって記事を通じて聞いたのが、正直寂しかった」と。
僕はそれに対して詫びを入れ、そしてその原因が、自分の内面の弱さにあることを率直に打ち明けた。
それに対してまた返信を貰った。今回、僕が記事を起こすことによって、こんなリアクションがスタッフから返ってくるとは思わなかったので、正直とても嬉しかった。
僕は、そんな風にして僕なりに今回の「ルポ」の準備を行ったのかもしれない。
スタッフみなが身体で「つくること」を共有・体験しながら実現されたのが、今回の「くらこと」だと僕は感じている。そこが前回との大きな違いだと、主宰者の名倉くんも語っている。
「くらことの進める上で、今回気を使ったのは、スタッフが作家さんの気持ちに寄り添えるよう、自らが「つくること」を「楽しむこと」。開催前に、ワークショップ形式でサンドイッチやおにぎりをつくったり(【サンドウィッチ】【おにぎり】)、秋の色とりどりの枯葉を使って
遊びを取り入れた。こういったことは護国神社のARTS&CRAFT静岡にはない過程」
ワークショップを行うことによって、スタッフたちは様々なものを「形にする」という過程を楽しんで、それが自信や結果につながればというのが、今回名倉くんの狙いらしい。狙い?と言っては大袈裟。単純に彼自身、それがやりたかったし、楽しいからだろうと僕は思った。以前、名倉くんはこんなことも僕に漏らしていた。
「今まで言葉で何かを教わるっていうことをしてこなかったし、なんでも見りゃわかるじゃん?って思うから。教えられることを必要だと思ったこともないんだけど、それ故に自分の文脈でしか伝えることが出来ないんだよね。でも、今はそれじゃいけないと思っていて、今回ああいったワークショップの形式をとった。言葉で伝えるのではない方法を通じて、企画力とか、イベントをつくる上での天井を上げるきっかけになればと思ったし、場をつくる僕らにとってそれが必要なことだと思ってる…」
それは「真剣な遊び」みたいなものだよね?と僕が問いを投げると、
「そう、真剣な遊び。真剣なだけだと白けるから、遊び心が大切だなって思う」
と言って笑った。
名倉くんとのインタビューを収録したのは、当日朝五時半。録音されたテープレコーダーからは、遠くにカラスたちの鳴き声が響いていた。吐く息も白かったのも、鮮明に覚えている。
僕の睡眠時間は一時間半。何故なら、夜更け3時半まで焼き物の作家さんたちと残り、前夜祭の三次会をしていたからだ。名倉くんは言う。
「前夜祭は単純に楽しかった(笑)。前夜祭じゃなければ話せなかったこともあるだろうし。例えば、たまたま焼き物の作家さんが火のまわりに集まって話しをしたんだけど、それぞれものをつくることに対して、釉薬のことだったり、産地の土のことだったり、作家さんならではの話が交わされてて、その話の半分くらいしかわかってないと思うのだけど、そういう話しが聞けたのが楽しかった。前夜祭という形から一旦解散して、二次会になって、お酒を飲みながら炎を囲んで、そういう形じゃなきゃ話せなかったことが、きっとある気がするんだよね。それが前夜祭の醍醐味だったと思います」
前夜祭。はじめはみな、互いに対して気遣いのような固さがあったように思う。それを足久保の静かな夜の闇だったり、焚き火の炎だったりが、徐々に溶かし、互いに打ち解け合うようになっていった。バーベキューというアクションも良かったのかもしれない。少人数だけど、二次会、三次会と炎を囲めたのが良かったし、嬉しかった。
くらことの朝は早い。今回、カフェスタッフを務める川手さんは既にこの時間に起き、3つのガスコンロに火を点け、土鍋でご飯を炊きはじめていた。
「寒いですね」
「寒いです」
という他愛のない挨拶を交わしつつ、みんなが寝静まったその場所で土鍋の番をする川手さん。これからこれらのご飯は、作家さん用のおにぎりになる。
六時。誰かの目覚ましが鳴ると、そこに寝ていた作家さんたちがきびきびと次から次へ起きはじめる。その動きの速さが印象に残る。作家さんたちは、素早く身支度を整え、それぞれのブースをつくるための作業に向かう。
そして午前10時、第二回くらしのこと市開催。すでに10時前からお客さんもちらほらと入り始めている。木藝舎・Satoの入口には、スタッフの藤本さんが制作、木藝舎で出た廃材を使って「くらしのこと」の字を模った、大きな看板があった。
入口を入ってすぐの直線に、器の作家さんのブースが10組近く並ぶ。
器は日差しを気にしないからだろうか?誰もテントを張っていないのが目に付く。
青空に良く栄えるブースの配置が印象的だった。
逆に、その直線をカーブしたところに展開する、木工や布物のブースたちは、みんなテントを張っていた。
テントのある、なしで景色が変わる。とてもいい切り替えだと思った。
僕はまず、器の作家さん、たなかのりこさんにお話しを伺った。
「くらことに出てみて?すごい楽しいです。ARTS&CRAFT静岡に比べてブース数が少ないのもあかもしれないですけど、ギュッと密な感じがあってこれもいいなと思います。人数が絞られているので、ほとんどの作家さんとお話しが出来て、楽しかったです」
たなかさんは器と食事の関係性を大切にしていると思うのですけど。
「器って付属と言えば付属。ご飯の中身は変わらない。でも、お気に入りの器を見付けて使うことによって、ご飯の時間が楽しくなるというか、すごく豊かなことだなって。そういう風に使って頂ける器をつくりたいなと思って。自分も日々バタバタと忙しくしていても、そういう食卓を心掛けてつくるようにしています。私、お酒飲むのも好きで、夕方くらいから今夜はワインだから、料理はこの器だなとか考えるのも楽しみです」
たなかさんの言っていたように、くらことの特色は厳選された作家さんの数にあると思う。僕は、今回、名倉くんから、「半分お客さん目線・半分ドキュメント」というスタイルでこのルポを書くよう依頼を受けた。
だから、ライターの名刺を見せる前に、お客さんとして作家さんの各ブースを回らせて頂いた。
ARTS&CRAFT静岡でもそうだが、今回のくらことでより印象に残ったのは、作家さんとの対話の密度、長さのようなものだ。
どの作家さんも積極的にお客である僕と対話をしようと話しを投げ掛けてくるし、また、作品に対する説明もじっくりと時間を掛けて行ってくれた。
ARTS&CRAFT静岡では、ライターとして作家さんに関わることが多かったが、今回はその前のいちお客として作家さんと素のまま話した。
そこで、普段作家さんはこんな風にお客さんに接しているのか、という部分も感じられたし、今回のくらことのコンセプトが「つくり手と使い手がつながり、くらしより良く」というところもあるので、各作家さんもそれを意識してくれているのだろう、とも読むことが出来た。そして単純に、作家さんとの対話は楽しかった。
「こだわりと言っていいのかどうか?ただ自分で信じてやっているというか……」
…と、話しはじめてくださったのは、金工の作家、羽生直記さんだ。
羽生さんはなんでも、鉄をある形へと変化させるのに熱を使わずに、ひたすら叩いてそれを成形するというのだ。鉄は熱を一度通すと、鉄を形成する組織が緩んで柔らかくなる、そしてそれを金づちなどで打ち締めると硬くなる。羽生さんは、より硬いものをと考え、熱を入れることをしないで、冷えた状態で叩くことをしている。
「でも、僕のこのやり方が正しいのか、結果が出るのは、10年、20年って使って頂いた後になるんですけどね」
そう言って羽生さんは笑みを浮かべた。そもそもこの手法を取るきっかけになったのは、はじめは炉で熱する方法を取り成形していたのだが、それが同じ手法を取っている誰かの作品の形に似ていると感じたからであったという。ならば違う手法で、形を整え、と試したところ、なんとなく自分の思い描いた形に至ったのだという。
「くらしの中では、散歩を大切にしています。周りの環境も良く、湖などもあるので、ゴミを拾って持って帰ったり、何かに使えないかな?って(笑)」
羽生さんがくらことと関わることでくらしに影響を受けた部分は?
「くらしって何だろう?明確な答えは出ないんですけど、考えるきっかけになりました」
前回僕はくらことにお客さんとして遊びに行ったけれど、くらことからは何らその後のくらしに対する影響は受けなかったと、「くらことドキュメント」の記事で書いた。
今回はどうだろうか?
羽生さん同様、大きかったのは、今回のくらことが、くらしのことを考える「きっかけ」になったことなのかもしれないと思った。これこれこういうくらしをした方が良いよ、という具体的な何かを指し示す答えのようなものではなく、スタッフと作家さんがつくり上げたくらことという「くらしの縮図」を通じて、問題を持ち帰り、それを自分に還元する場なのかもしれない。そんなことを今に思う。
これはすごく当たり前のことなのだけど、そこからが変化だと思うから。
次にお話しを伺ったのは、器の作家さん、池田大介さんだ。
「こんなところに人来るのかな?と思ったんですけど、人が結構入って良かったです」
と語る池田さん。彼の器は、三島手という技法が凝られさているのが特徴的だった。
「三島手って技法は、三島大社が出している三島暦の模様に似ているから来ているという説があります。別名、暦手」
器の中心から外側に掛けて、放射状に、細い線が幾百と広がっていく。暦の模様に似ているというだけあってか、静かで重量感のある器に僕は感じた。
「今回、カフェで僕の器も使って頂くんです。そんな風に、使ってる景色がイメージがしやすいのがいいですね」
くらことに何か要望があれば?
「もっと色々な機会があったら良かった。例えば、ARTS&CRAFT静岡の小屋の企画。あれも特定の人だけでなく、参加者全体で共有できる何かがあれば良かったと思いました」
参加者全体で共有できる企画。それがあれば、作家さん同士の結び付きも強まるし、また互いを知るいいきっかけにもなるだろうと思った。
手創り市は、「市」である。市であるからこその、他との対比や、つながりが、その作家さんに影響を与え、成長につなげるヒントを浮かび上がらせる可能性は大きい。
つくり手同士が、切磋琢磨し合うことは、良い事だと僕は思うし、そのきっかけにこの場がなれば尚のことだ。
…
次のお話しを伺ったのは、家族連れで来ていた男性のお客さんだ。
「この先でやっていたお茶祭で、ここでのイベントを教えて頂いて」
「くらしのこと市」は、このイベントを通じて、何かお客さんのくらし向きに良い変化があれば、というコンセプトもあるのですが。その点では何か?
「まだ買ってはいないんですけど、これひとつあったら、食卓が変わるかなと思うものがいくつかあって。それが嬉しいですね」
「あと、この足久保の環境はとてもいいですね」
ありがとうございました。
器ひとつで食卓の景色が変わる。僕がくらしにおいて意識していることの一つに、「物の存在感」がある。その物を、部屋のどこにどう置くか。またその物をどんな時にどう使うかで、環境や気分に与える影響について考えることがある。
このお客さんは、どんな器を買い、今頃どんな食卓を囲んでいるのだろう? その時、「この器は、くらしのこと市で買ったんだったよね」などの会話が弾み、Satoの空気や、この日の思い出もセットで浮かび上がればいいな、と今に思う。
11時を迎え「くらしのことカフェ」がオープンした。11時過ぎにそこに訪れると席はすでに満席状態。
新しいお客さんがカフェの入口に現れるたびに「満席なんです」と返される景色が目を引いた。そこが惜しいと思った。
カフェスペースの隣には、作家さんから飯碗を集めた「飯碗展」があり、その手前には、くらしにもとずく古本を集めた「くらしのBOOKS」のコーナーがあった。
僕はお客さんの動線を見ていたが、カフェからこの二つのコーナーに流れて来るお客さんが少ないと感じた。
もし、カフェスタッフが一言、この二つのコーナーにお客さんを誘導するようアナウンスしたら、そのお客さんの動きにも変化があったのでは、と思った。
一方、カフェの前の休憩所に人がギュッと溜まっている景色はいいものだった。
そして、そこにある砂山やツリーハウスを子供たちが上手に遊び場に変えているのも微笑ましかった。これはSatoという環境ならではのことだと思った。
(後編へつづく…)
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