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第2回くらしのこと市ルポ:後編



【前編】に引き続き後編をお届け致します。ご覧下さい。





次にお話しを伺ったのは女性のお客さん2人だ。


カフェで食事をなさったのですね?「土鍋ごはんと七つのおかず」の感想を頂けますか?


「美味しかった。机についた人、全員の器も、ひとつひとつ違っているのが良かった」


「器ひとつで、ご飯が美味しく感じられるのだなということを改めて実感しました」


ありがとうございました。



僕もくらことのシミュレーションで、カフェスタッフの二人、川手さん・山梨さんがつくった「土鍋ごはんと七つのおかず」を頂きました。七つのおかずは、メインが春巻き。プルーンとカマンベールとくるみにささみを挟んだもの、トマトの中に干し梅入れたもの、キュウリに味噌マヨネーズ添えたもの、ローゼルの甘酢漬け、梅干し、大根ゆず味噌乗せです。


美味しかった、というのが素直な感想。

七つのおかずの彩も良く、まず、眼で楽しめるのが良かった。そして、それら平皿に並べられた七つのおかずに、順番に箸を渡すのが単純に楽しかった。眼で見て美味しくて、箸を運ぶ楽しみもあって、さらに味もいい。土鍋で炊いたご飯にそれらおかずを合わせると、またその旨味も増したように思った。満足です。ごちそうさまでした。



次にお話しを伺ったのは、器の作家さん、山崎裕子さんだ。



「どこかに行って美しい物を観る。ではなく、自分の生活に美しい物が入るということの方が、効果があるというか、ダイレクトに楽しい。自分の生活の中で楽しめるものを目指して器づくりをはじめたので、くらことのコンセプトには共感しています」


生活の基本ですものね。


「お茶を飲むときにきれいだなってホッとするというか、どこか余所じゃなくて、自分のところで美しなと感じられるものが大切」


その考えは昔からですか?くらことのコンセプトにすごく近いですが?


「前からですね。でもこういうイベントに人が集まるってことは、同じように考えている人も増えたっていうことですよね?自分と同じように感じている人がたくさんいると思うと嬉しい」


基盤である生活に、彩を与える物を大切にする山崎さん。生活が生きることの中心であることを考えさせられる対話でした。



14時になった。カフェスペースの隣のスペースにて、スタッフの米澤さんが司会を務める、「くらしのトークショー」が始まった。話し手は、早川靖さん(陶磁)、フジナミチハル(フード・Chipakoya)、名倉くんの三人だ。


前回のトークショーとの大きな違いに、パネルディスカッションがあった。ステージの四人がそれぞれ自前で平日の朝ごはんと休日の朝ごはんを撮影し、それをパネルで見せ合いながら言葉を交わすというものだ。こうして、作家さんやスタッフの日常そのものが切り取られ、作家さんなら作品のことやつくることを聞いたあとでそれが提示されたのには、興味をそそられた。


約40分弱のトークショーだったが、あっという間に終わったように思えた。

そして今回、「誰もいない会社で一人リハーサルをしている」と、言っていたスタッフの米澤さんの司会振りが良かった。アドリブは大の苦手と自称する彼女が、懸命に、話し手の会話を深めようと、かなりつっこみを入れていたのが印象的だった。早川さん、フジナミさんの真っ直ぐな人柄もよく引き出されていたように思う。



次にお話しを伺ったのは、前回のトークショーに話し手として参加して頂いた、紙モノ作家のmuniさんだ。muniさんは今回、ひとりの使い手としてこの会場に足を運んでくださったという。


「トークショーの感想。つくり手の普段の生活が垣間見れるのが、良いところですよね。つくり手の方が、どんな生活をしているか、気になりますし。そこがトークショーのいいところじゃないですかね。パネル見せながらも、言葉だけでなく、眼に訴えるものも用意していて。新しい形が見れて僕は良かったと思っています」


お客さん目線でのくらことの感想を。


「晴れたというのが一番大きい。この景観と作家さんの作品が溶け込んでいるのがいいですね。あと土鍋でご飯を炊くこと。今便利な世の中になって、ジャーでタイマーセットしてご飯を炊くのは当たり前になっていて。こういう自然の中でアナログ的なところを提供出来るのもいいと思うし。ホント、人間の生活の原点を、スタッフさん、方向性を考えてるなぁーと思います。だから、第三回目がとても楽しみですよね」


要望があれば?


「去年は各ブースに、物づくりに対する気持ちが書かれた紙が貼ってあった。それが今回もあっても良かったのにな、とは思いましたね。使い手とつくり手の間に作品があるのだけど、それを通して会話が出来る仕組みがあればな、と思いました。作家さんからの一方通行にならずに絡める何かがあれば、くらしのことについて考えるきっかけになるのかなと思いました」



次にお話しを伺ったのは、トークショーで司会を務めた米澤さんだ。


「やり切りました。でもお客さんが身内だけだったので。次はあるのかな?今回教室が出来なかったから。それやらないで、トークショーという感じなんで、次は教室に力を入れたいと思いました」


スタッフとしてくらことに関わっての感想を。


「作家さんと密になる。前夜祭もあったし、トークショーのイベントもあったし。その上で作家さんとの一体感について考えました。作家さんと一体感があるってこんなに楽しいのかって思った。その分責任がある。だから宣伝にも力を入れました」


くらことにお客さんとして回ってみて、すごく作家さんが積極的だなと思ったのですが。


「スタッフとのやり取りから、くらことの趣旨を作家さんが汲み取って、そうしてくれているのなら嬉しいです。もちろん、それ以前にいつも積極的な姿勢でお客さんと話されてる作家さんもいると思うのですけど」


反省点は?


「3時でこのお客さんの入りはダメでしょう。少ない。朝はたくさんいたんですけどね。ARTS&CRAFT静岡の場合、3時以降の吸引力となるのが「まちきれない! おやつセット」なんですけど。くらことの場合もそういったものを考えないと」


この後、米澤さんと前回のARTS&CRAFT静岡ルポ・前編の話しなった。彼女はいう。


「橋本さんの言葉に、スタッフはまとめ役と、聞き役、自己主張役がいて、これからはもっとまとめ役が育っていかなければならない、とあったんです。で、私は自己主張役なんですけど、自己主張役になれたのも実は最近なんです。それまでは、周りの空気を気にして意見を言えなかった。それが最近、ようやく言えるようになったので。橋本さん、名倉さんには、「もう少し待ってください」という内容のメールを出しました」


この「もう少し待ってください」は「私は変わりますから」と同意だ。



次にお話しを伺ったのは、一回目に出展して頂いているフードの作家さん「ユーカリカシテン」さんだ。


お客さんとしてこのイベントを観ての感想は?


「カフェで食事をしている時に、一人一人の器が違うことに気付いて、あ、こんな使い方も出来るんだという風に気付いたんです。そこで自分の生活にリンクした。器を見てても、家でどうやって使おうかと悩む時もあるので、そういう時に実際使っているのを見れると様子がわかるというか」


料理の味はどうでしたか?


「全体的に美味しかったですけど、ご飯と合わせたいおかずなのかな? と思う物もあった。プルーンなんですけど、これはおかずというよりおつまみかなって。私のイメージではお米が主役だと思っていたので。美味しかったんですけど、私のご飯のイメージに合わないものもあったかなって」


家で土鍋で炊いてみようと思いますか?


「うちは鍋で炊いているので。今度、土鍋でもと思いました」


要望があれば。


「カフェがスムーズでなかった。前回もなんですけど、ご飯が一時間待ちとかで、何も食べれなかったお客さんがいたっていうのも、何人かから聞いてますので。でもまだ一回目だからかなぁ〜って、思ってたんですけど。慣れないところで慣れないことをやっているから。人数が足りないのかもしれないですけど、全然改善出来て、全然良くなると思います。せっかくの色んな想いや志がもっと活かされると思います」



次にお話しを伺ったのは木藝舎の八木さんだ。


「お疲れ様でした」


あと30分くらいで終わりですね? ではくらことの感想を。


「はい。僕は朝、駐車場にいたのですけど、車がいっぱいで。人の出もあるけど、作家さんのチョイスも素晴らしくて」


八木さんから観たスタッフの印象を。


「名倉さんがまとめてるっていうのもあるんでしょうけど、みなさん人柄が良くて。そこに混ざって楽しませて貰ってます(笑)」


前夜祭も色々とやって頂いて。ありがとうございました。


「僕も楽しかったです」


前夜祭には、前夜祭でしか話し合えないだろうってことも作家さん同士あって。


「そうやって、作家さんが刺激し合って、ヒントを与えあえればいですね。でもホント、完成度の高い作家さんたちなので、来る人も「違う」っていう風には言ってますよね」


八木さん自身、くらことに影響を受けてくらしが変わった側面はありますか?


「あります。包丁を持って料理をちょっとはじめています。それまでに料理はやったことないのですけど。季節の物をお皿の上に乗せる、みたいな。まだはじめたばかりなので、この時期のこの料理にはこの器がいいって、もうちょっと見極めてからね、一点ずつ買っていきたいなって思ってます。生活が変わりましたよ」


嬉しい台詞ですね、ありがとうございます。では最後に要望があれば。


「年に一度、続けて頂きたいな。というのが一番の要望です」


ありがとうございました。


八木さんの料理の話しは、すごくシンプルな変化例だと思った。そして、料理のことを語る八木さんもすごく嬉しそうに語ってくれていたのが印象的だった。



次にお話しを伺ったのは、「みらいのあなたへ@くらしのこと市」でカメラマンをやって頂いた「OHNO CAMERA WORKS」の大野さんだ。



「今日もたくさん撮らせて頂きまして、10組くらい。開始が12時からなので、充分、僕も楽しく時間を過ごしました」


今回は背景が木藝舎さんがつくってる古材のパーテーションですよね?


「木藝舎さんでやったといういい思い出になるのでと思います」


今回のくらことから、ご自分にフィードバックされた部分があれば?


「生活が豊かになるものがたくさんあるので、仕事をさせて頂いているんですけど、心が豊かになるというか。見ているだけでも刺激にもなるし、そういう意味ですごく良い場所だなという風に思います」


最後の要望があれば?


「食事が食べれなかったというお客さんの声を聞いたので、もう少し何かあればなと」


ありがとうございました。




次にお話しを伺ったのは、カフェスタッフのお二人、スタッフの川手さん・山梨さんだ。


今回、どんな風にメニューが決まっていったのですか?


「二人で七種のおかずに試作を決めたのだけど、見た目とかを考えた時に違うんじゃないかと。シミュレーションの二、三日前に、ガラッとラインナップを変えました。最初、コンセプトを秋の山の色のイメージと考えていたのだけど、実際にお皿に盛った時に、料理を出された時の驚きとか、面白さがないなと思って」


カフェで気を使った点は?


「今回、土鍋ご飯がメインだから、炊き方に失敗は出来ない。そこに気を使いましたね」


周りからの反響は?


「器の作家の前田さんが言っていたんですけど、カフェでご飯を食べている時に、前田さんのお皿に盛り付けられた料理を「素敵」って言っているお客さんがいて、その後、前田さんのブースに来て、器を買ってくれた、と聞きました。それが聞いていて嬉しかった」


「返って来るお皿が、食べ残しがなくて嬉しかった」


「作家さんたちのおにぎりだったけど、みんな美味しかったと言ってくれて嬉しかった」


反省点は?


「揚げ物が難しい。春巻きを三角にしたのはいいんですけど、それが揚げ辛くて苦戦しました。最後の方に美しく揚げることが出来るようになったけど、最初の方はいびつで……」


素材はどこから仕入れましたか?


「食材は、川手家のお野菜だったり、山梨家の梅干しだったり、静岡県産のものだったり」


身近にあるものですね。では、最後に、今回のくらことを通じて変われた部分を。まず、川手さん。


「楽しかった。去年はやらなきゃやらなきゃで、終わって楽しかったかと言われればどうだっただろうというのがあったけれど。今回も疲れたけど、今すぐにでも眠りたいけど、楽しかった」


次に、山梨さん。


「同じです。去年は名倉さんに怒られる夢を見て、当日を迎え、アワアワ言いながら終わったけど、今回はおにぎりのワークショップとかもあって、みんなで一緒につくってる感じがして楽しかったです」


美味しいご飯をありがとうございました。


今回、二人はものすごく、くらことに労力を注いているのだろうと、はたで見て伝わって来た。前回のカレーに僕は批判的なことを言ったけれど、それに対して二人は、「尚更闘志に火が点いた」と言ってもくれた。

そんな二人がつくった今回の「土鍋ごはんと七つのおかず」は本当に美味しい物だった。そこに辿り着くまでの試行錯誤や、様々な行程。それを経た上でのこの結果。それが何より、二人の変化の証なのかもしれないと僕は思った。



そして、最後のお話しを伺ったのは、名倉くんだ。


くらしのこと市、お疲れ様でした。では、今回の感想を。


「くらことはまだ二回目だし、成功どうのこうのと話しをしても仕方ないけど、スタッフとの取り組みに関しては、過程から着地点まで概ねやれることをやれたように思います」


各企画について何かあれば?


「カフェはひとつの企画として、単にくらことカフェのメニューをつくっておしまいではない、お皿の上にあるものをイメージすることが出来ていたように思います。それは去年の反省から来ているかなと。」


「飯碗展は形にはなっていたけど、販売につながらなかったということは、自分たちがそこまで手がまわらなかったということだよね。それは真摯に受け止めたい。飯椀展は一生くんがレイアウトをやってくれて、飯碗を並べている過程でテンションがのってきて、植物をレイアウトに入れたりしだした。それがいいなと思ったよ。彼は普段見ている様々なものを、自分の解釈で実際に形にするべきだと思ってます。そうじゃないと彼の見ている景色が人には伝わらないから。」


「トークショーは米澤さんが頑張ってくれた。役者兼舞台監督みたいに。声のトーンだったり、色々なことを考えた上で、自分を形にしているなと。今後はトークショーで伝えたかったことをトークショーとは違う形で伝える。そういうことを米澤さんをはじめとするみんなで考えていきたいかな。」


今回の反省点は?


「まず、くらことやってみて良かったと思うよ。そこに参加する全員が、川手さん、山梨さん、米澤さんのように各自ひとつの企画を持っていたかと言えばそうではないけれど、くらことのスタッフとしては目指すべき方向がより鮮明になったから。工作の「つくる」ではなく、創造の「つくる」をくらことの中でやっていこうと改めて思った。反省ではなく、これからの目標だよね。スタッフにも、まず身内をあっと言わせるようなアイデアを出して欲しい。完成度ではなく、エネルギーの感じるものを、好きが伝わるものを。まずスタッフ内で響かないと、作家さんたちにも響いていかないからさ。」


「静岡スタッフはやるべきことをきちっとやれる反面、決まりのないものをやる時、いわゆる表現によったものをつくろうとすると、固くなっちゃう。そうじゃなくて、軽さのある部分、抜くところがないと、良い物はつくれないと思うんだよね。考え込むことで固くなったものを、飛躍させるもの、抜きどころだよね? それを伝えたかったのが枯葉のワークショップ。あらかじめルールがある訳ではなく、考えつつ、飛躍しつつ、抜きどころを見付けていく。その連続だと思う。そこでみんなが気持ちいいと思える景色が生まれて、面白いな、綺麗だな、って感覚が自然とルールになっていく。それを、ワークショップという体験で伝えたかったし、それが僕の役目かなって思っていた。でも、勉強になったよ。皆のお陰で。」


最後に、次回のくらことに向けて。


「木藝舎さんで二回目。八木さんには今回も、僕らのしつこい準備に協力してもらって、わがまま放題でやらせて貰ったっていうのは間違いないから、あの場で自分たちが何が出来るのかを考えたいし、本当に自分たちが何をしていきたいか?それぞれが考えながら、皆と話し合っていきたい。木藝舎さんにも何かしてもらいたいよね、思いつきですが。」


「くらことは、自分たちがつくるイベントであるんだけど、参加する作家さんにもっと協力して貰いたい。くらこと故に見せることの出来るものとか、そういったことを一緒に考えてくれる作家さんに出て貰いたいです」


お疲れ様でした。

ありがとうございました。


これは冒頭でも触れたことだが、くらことは「つくること」で「変わり」、「変わる」ことで「生まれた」イベントだと思う。それを今回、間近で見ることが出来、大変、貴重な体験をさせて貰ったと僕自身思っている。


僕自身が考える、今後のくらことは、教室のようなものがやはり欲しいということ。それは、名倉くんの台詞にもあった、「トークショーで伝えたかったことをトークショーとは違う形で伝えていく」という結果の上にある教室かもしれないし、また違うものかもしれないけれど。


スタッフを見ていて感じたことは、変化と不安は対にあるものだとも思う反面、変化を怖れない心には、対に勇気が宿っているとも思えた。そんなみんなには、今回、色々と気付きを与えられたし、シンプルにそんなみんなを良いと思えた。


今後、企画を実現していくという面で、いいものをつくり上げていきながらそれが形になっていったら、どんどんみんなも変わっていけるし、そこには期待している。変化と実現はイコールなのかなと思う。そんな今後のくらことを僕は楽しみにしています。


毎回の長文、読んで頂きありがとうございました。

これにて「第二回くらしのこと市ルポ」を終わります。



うえおかゆうじ 


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第二回くらしのこと市ルポ:前編


「第二回くらしのこと市ルポ:前編」


このルポは、以前、前・後編に分けて掲載された「くらしのこと市(以下→くらこと)ドキュメント」の流れを汲むものだ。

僕はその中で、くらことに関わるスタッフが、前向きに変化しようといるその様を追い、その姿を通じて「変わることによって新しい未来に入ることが出来る」といったような考えに至った。


さて、僕は何が変わったのだろう?

まず、大きかったのは、その記事を通じて、自分の考えを遠慮なくスタッフに伝えたことだ。

例えば僕は、前回のくらことを通じて、自分の生活が変わったかといったら「それはない」と書いた。

そういったことを率直に書くのは、僕の最も苦手とするところだった。

他人に遠慮をし、物事を薄くまとめてしまう。そういう側面があった。

その枠を超えることが出来たのが、「くらことドキュメント・前編」だった。


枠を超えることが出来たきっかけは、スタッフにあった。

スタッフが取材を通じて、率直に、自分の内面まで語ってくれたこと。その信頼が嬉しかった。だから僕も枠を外せたのだと、今に思う。


前編を読んで、あるスタッフが僕個人宛てにメールをくれた。

「うえおかさんの考えを直接聞くのでなく、後になって記事を通じて聞いたのが、正直寂しかった」と。

僕はそれに対して詫びを入れ、そしてその原因が、自分の内面の弱さにあることを率直に打ち明けた。

それに対してまた返信を貰った。今回、僕が記事を起こすことによって、こんなリアクションがスタッフから返ってくるとは思わなかったので、正直とても嬉しかった。

僕は、そんな風にして僕なりに今回の「ルポ」の準備を行ったのかもしれない。



スタッフみなが身体で「つくること」を共有・体験しながら実現されたのが、今回の「くらこと」だと僕は感じている。そこが前回との大きな違いだと、主宰者の名倉くんも語っている。


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「くらことの進める上で、今回気を使ったのは、スタッフが作家さんの気持ちに寄り添えるよう、自らが「つくること」を「楽しむこと」。開催前に、ワークショップ形式でサンドイッチやおにぎりをつくったり(【サンドウィッチ】【おにぎり】)、秋の色とりどりの枯葉を使って

遊びを取り入れた。こういったことは護国神社のARTS&CRAFT静岡にはない過程」


ワークショップを行うことによって、スタッフたちは様々なものを「形にする」という過程を楽しんで、それが自信や結果につながればというのが、今回名倉くんの狙いらしい。狙い?と言っては大袈裟。単純に彼自身、それがやりたかったし、楽しいからだろうと僕は思った。以前、名倉くんはこんなことも僕に漏らしていた。


「今まで言葉で何かを教わるっていうことをしてこなかったし、なんでも見りゃわかるじゃん?って思うから。教えられることを必要だと思ったこともないんだけど、それ故に自分の文脈でしか伝えることが出来ないんだよね。でも、今はそれじゃいけないと思っていて、今回ああいったワークショップの形式をとった。言葉で伝えるのではない方法を通じて、企画力とか、イベントをつくる上での天井を上げるきっかけになればと思ったし、場をつくる僕らにとってそれが必要なことだと思ってる…」


それは「真剣な遊び」みたいなものだよね?と僕が問いを投げると、


「そう、真剣な遊び。真剣なだけだと白けるから、遊び心が大切だなって思う」


と言って笑った。


名倉くんとのインタビューを収録したのは、当日朝五時半。録音されたテープレコーダーからは、遠くにカラスたちの鳴き声が響いていた。吐く息も白かったのも、鮮明に覚えている。


僕の睡眠時間は一時間半。何故なら、夜更け3時半まで焼き物の作家さんたちと残り、前夜祭の三次会をしていたからだ。名倉くんは言う。



「前夜祭は単純に楽しかった(笑)。前夜祭じゃなければ話せなかったこともあるだろうし。例えば、たまたま焼き物の作家さんが火のまわりに集まって話しをしたんだけど、それぞれものをつくることに対して、釉薬のことだったり、産地の土のことだったり、作家さんならではの話が交わされてて、その話の半分くらいしかわかってないと思うのだけど、そういう話しが聞けたのが楽しかった。前夜祭という形から一旦解散して、二次会になって、お酒を飲みながら炎を囲んで、そういう形じゃなきゃ話せなかったことが、きっとある気がするんだよね。それが前夜祭の醍醐味だったと思います」


前夜祭。はじめはみな、互いに対して気遣いのような固さがあったように思う。それを足久保の静かな夜の闇だったり、焚き火の炎だったりが、徐々に溶かし、互いに打ち解け合うようになっていった。バーベキューというアクションも良かったのかもしれない。少人数だけど、二次会、三次会と炎を囲めたのが良かったし、嬉しかった。



くらことの朝は早い。今回、カフェスタッフを務める川手さんは既にこの時間に起き、3つのガスコンロに火を点け、土鍋でご飯を炊きはじめていた。


「寒いですね」


「寒いです」


という他愛のない挨拶を交わしつつ、みんなが寝静まったその場所で土鍋の番をする川手さん。これからこれらのご飯は、作家さん用のおにぎりになる。


六時。誰かの目覚ましが鳴ると、そこに寝ていた作家さんたちがきびきびと次から次へ起きはじめる。その動きの速さが印象に残る。作家さんたちは、素早く身支度を整え、それぞれのブースをつくるための作業に向かう。


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そして午前10時、第二回くらしのこと市開催。すでに10時前からお客さんもちらほらと入り始めている。木藝舎・Satoの入口には、スタッフの藤本さんが制作、木藝舎で出た廃材を使って「くらしのこと」の字を模った、大きな看板があった。


入口を入ってすぐの直線に、器の作家さんのブースが10組近く並ぶ。

器は日差しを気にしないからだろうか?誰もテントを張っていないのが目に付く。

青空に良く栄えるブースの配置が印象的だった。

逆に、その直線をカーブしたところに展開する、木工や布物のブースたちは、みんなテントを張っていた。

テントのある、なしで景色が変わる。とてもいい切り替えだと思った。



僕はまず、器の作家さん、たなかのりこさんにお話しを伺った。



「くらことに出てみて?すごい楽しいです。ARTS&CRAFT静岡に比べてブース数が少ないのもあかもしれないですけど、ギュッと密な感じがあってこれもいいなと思います。人数が絞られているので、ほとんどの作家さんとお話しが出来て、楽しかったです」


たなかさんは器と食事の関係性を大切にしていると思うのですけど。


「器って付属と言えば付属。ご飯の中身は変わらない。でも、お気に入りの器を見付けて使うことによって、ご飯の時間が楽しくなるというか、すごく豊かなことだなって。そういう風に使って頂ける器をつくりたいなと思って。自分も日々バタバタと忙しくしていても、そういう食卓を心掛けてつくるようにしています。私、お酒飲むのも好きで、夕方くらいから今夜はワインだから、料理はこの器だなとか考えるのも楽しみです」


たなかさんの言っていたように、くらことの特色は厳選された作家さんの数にあると思う。僕は、今回、名倉くんから、「半分お客さん目線・半分ドキュメント」というスタイルでこのルポを書くよう依頼を受けた。

だから、ライターの名刺を見せる前に、お客さんとして作家さんの各ブースを回らせて頂いた。

ARTS&CRAFT静岡でもそうだが、今回のくらことでより印象に残ったのは、作家さんとの対話の密度、長さのようなものだ。

どの作家さんも積極的にお客である僕と対話をしようと話しを投げ掛けてくるし、また、作品に対する説明もじっくりと時間を掛けて行ってくれた。

ARTS&CRAFT静岡では、ライターとして作家さんに関わることが多かったが、今回はその前のいちお客として作家さんと素のまま話した。

そこで、普段作家さんはこんな風にお客さんに接しているのか、という部分も感じられたし、今回のくらことのコンセプトが「つくり手と使い手がつながり、くらしより良く」というところもあるので、各作家さんもそれを意識してくれているのだろう、とも読むことが出来た。そして単純に、作家さんとの対話は楽しかった。



「こだわりと言っていいのかどうか?ただ自分で信じてやっているというか……」



…と、話しはじめてくださったのは、金工の作家、羽生直記さんだ。

羽生さんはなんでも、鉄をある形へと変化させるのに熱を使わずに、ひたすら叩いてそれを成形するというのだ。鉄は熱を一度通すと、鉄を形成する組織が緩んで柔らかくなる、そしてそれを金づちなどで打ち締めると硬くなる。羽生さんは、より硬いものをと考え、熱を入れることをしないで、冷えた状態で叩くことをしている。


「でも、僕のこのやり方が正しいのか、結果が出るのは、10年、20年って使って頂いた後になるんですけどね」


そう言って羽生さんは笑みを浮かべた。そもそもこの手法を取るきっかけになったのは、はじめは炉で熱する方法を取り成形していたのだが、それが同じ手法を取っている誰かの作品の形に似ていると感じたからであったという。ならば違う手法で、形を整え、と試したところ、なんとなく自分の思い描いた形に至ったのだという。


「くらしの中では、散歩を大切にしています。周りの環境も良く、湖などもあるので、ゴミを拾って持って帰ったり、何かに使えないかな?って(笑)」


羽生さんがくらことと関わることでくらしに影響を受けた部分は?


「くらしって何だろう?明確な答えは出ないんですけど、考えるきっかけになりました」


前回僕はくらことにお客さんとして遊びに行ったけれど、くらことからは何らその後のくらしに対する影響は受けなかったと、「くらことドキュメント」の記事で書いた。

今回はどうだろうか?

羽生さん同様、大きかったのは、今回のくらことが、くらしのことを考える「きっかけ」になったことなのかもしれないと思った。これこれこういうくらしをした方が良いよ、という具体的な何かを指し示す答えのようなものではなく、スタッフと作家さんがつくり上げたくらことという「くらしの縮図」を通じて、問題を持ち帰り、それを自分に還元する場なのかもしれない。そんなことを今に思う。

これはすごく当たり前のことなのだけど、そこからが変化だと思うから。



次にお話しを伺ったのは、器の作家さん、池田大介さんだ。



「こんなところに人来るのかな?と思ったんですけど、人が結構入って良かったです」


と語る池田さん。彼の器は、三島手という技法が凝られさているのが特徴的だった。


「三島手って技法は、三島大社が出している三島暦の模様に似ているから来ているという説があります。別名、暦手」


器の中心から外側に掛けて、放射状に、細い線が幾百と広がっていく。暦の模様に似ているというだけあってか、静かで重量感のある器に僕は感じた。


「今回、カフェで僕の器も使って頂くんです。そんな風に、使ってる景色がイメージがしやすいのがいいですね」


くらことに何か要望があれば?


「もっと色々な機会があったら良かった。例えば、ARTS&CRAFT静岡の小屋の企画。あれも特定の人だけでなく、参加者全体で共有できる何かがあれば良かったと思いました」


参加者全体で共有できる企画。それがあれば、作家さん同士の結び付きも強まるし、また互いを知るいいきっかけにもなるだろうと思った。

手創り市は、「市」である。市であるからこその、他との対比や、つながりが、その作家さんに影響を与え、成長につなげるヒントを浮かび上がらせる可能性は大きい。

つくり手同士が、切磋琢磨し合うことは、良い事だと僕は思うし、そのきっかけにこの場がなれば尚のことだ。



次のお話しを伺ったのは、家族連れで来ていた男性のお客さんだ。


「この先でやっていたお茶祭で、ここでのイベントを教えて頂いて」


「くらしのこと市」は、このイベントを通じて、何かお客さんのくらし向きに良い変化があれば、というコンセプトもあるのですが。その点では何か?


「まだ買ってはいないんですけど、これひとつあったら、食卓が変わるかなと思うものがいくつかあって。それが嬉しいですね」


「あと、この足久保の環境はとてもいいですね」


ありがとうございました。


器ひとつで食卓の景色が変わる。僕がくらしにおいて意識していることの一つに、「物の存在感」がある。その物を、部屋のどこにどう置くか。またその物をどんな時にどう使うかで、環境や気分に与える影響について考えることがある。

このお客さんは、どんな器を買い、今頃どんな食卓を囲んでいるのだろう? その時、「この器は、くらしのこと市で買ったんだったよね」などの会話が弾み、Satoの空気や、この日の思い出もセットで浮かび上がればいいな、と今に思う。


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11時を迎え「くらしのことカフェ」がオープンした。11時過ぎにそこに訪れると席はすでに満席状態。

新しいお客さんがカフェの入口に現れるたびに「満席なんです」と返される景色が目を引いた。そこが惜しいと思った。

カフェスペースの隣には、作家さんから飯碗を集めた「飯碗展」があり、その手前には、くらしにもとずく古本を集めた「くらしのBOOKS」のコーナーがあった。

僕はお客さんの動線を見ていたが、カフェからこの二つのコーナーに流れて来るお客さんが少ないと感じた。

もし、カフェスタッフが一言、この二つのコーナーにお客さんを誘導するようアナウンスしたら、そのお客さんの動きにも変化があったのでは、と思った。


一方、カフェの前の休憩所に人がギュッと溜まっている景色はいいものだった。

そして、そこにある砂山やツリーハウスを子供たちが上手に遊び場に変えているのも微笑ましかった。これはSatoという環境ならではのことだと思った。


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(後編へつづく…)



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